fukuhomu本記事では、実際に訪れて印象に残った絵画を中心に、ティツィアーノやドメニキーノの作品、古代ローマのモザイクや空間装飾まで、見どころを旅行記として紹介します。
ボルゲーゼ美術館の名作絵画、やっぱり外せないのはカラヴァッジョ
万博で日本でも話題に
引き続きボルゲーゼ美術館を巡ります。この記事は、ボルゲーゼ美術館に関する全3記事のうちの2本目で、絵画を中心に紹介していきます。
ボルゲーゼ美術館には数えきれないほどの名作がありますが、その中でも見逃せないのがカラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio/ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ)です。ミケランジェロという名前が含まれていますが、ルネサンス期のミケランジェロとは別人です。
2025年の大阪・関西万博では、イタリア館(バチカンパビリオン)で作品が展示されていたことでも話題になりました。


人気作家であるため巡回によって不在の作品もありますが、この日は2作品を鑑賞することができました。
ミステリアスな「果物籠を持つ少年」
カラヴァッジョ初期の作品「果物籠を持つ少年」です。


《果物籠を持つ少年(Ragazzo con canestro di frutta)》
1593–1594年頃 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
よく見ると、葉が枯れかけているなど細部までリアルに描かれています。頬を赤らめた青年がどこか色っぽい視線を向けており、少しミステリアスな雰囲気も感じられました。
机に置かれたドクロ「書斎の聖ヒエロニムス」
続いては、先ほどとは対照的な作品「書斎の聖ヒエロニムス」です。


1605–1606年頃 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
若々しさとは対極にある、老いた姿の聖ヒエロニムスが描かれています。聖ヒエロニムスは聖書をラテン語に翻訳した学者であり、この作品を見ると「聖書は最初からラテン語だったのではないのか?」という素朴な疑問にも気付かされます。
実際には、旧約聖書はヘブライ語、新約聖書はギリシャ語で書かれており、それらをラテン語に翻訳したものが「ウルガタ訳」として、1000年以上にわたり西ヨーロッパの標準となりました。なお、ラテン語はローマ帝国の崩壊後、フランス語やイタリア語などへと分化していきます。
それにしても、テーブルの上に置かれた髑髏が非常に気になります。髑髏は西洋絵画において死を想起させる象徴であり、「死を忘れるな(メメント・モリ)」というメッセージが込められていることが多いそうです。
その他、カラヴァッジョの作品
ボルゲーゼ美術館には、今回鑑賞した2作品以外にもカラヴァッジョの作品が全部で6点所蔵されています。巡回で貸し出されていたのか、それとも単に写真を撮り忘れてしまったのかは定かではありませんが、残りの4点は次の通りです。
- 聖アンナと聖母子(Madonna dei palafrenieri)
- ゴリアテの首を持つダヴィデ(David con la testa di Golia)
- 洗礼者ヨハネ(San Giovanni Battista)
- 病めるバッカス(Bacchino malato)
鮮やかな色彩は…ラファエロ
キリストの埋葬
澄んだ美しい色彩で目を惹くのは、ラファエロの作品です。こちらの「キリストの埋葬」は、キリストが処刑された後、十字架から降ろされる場面を描いたものです。


1507年 ラファエロ・サンツィオ
キリストの腰に巻かれた布はピンク色で、周囲の人物たちも赤や緑、青の衣服をまとっており、全体として非常に鮮やかな色彩が印象的です。
一角獣を抱く貴婦人
ラファエロからはもう1作品、「一角獣を抱く貴婦人」にも注目です。


1505–1506年頃 ラファエロ・サンツィオ
いわゆるモナリザのような構図の肖像画ですが、女性が抱えているのは一角獣(ユニコーン)。手乗りサイズでとても可愛らしい存在として描かれています。一角獣は純潔の象徴とされているため、この女性の純潔さを表現していると考えられます。
とはいえ、こんな手乗りサイズの一角獣が実際にいたら驚きですよね。急に動いてツノが刺さったら危ないのでは…と、つい余計なことまで考えてしまいました(笑)
美しい館にも注目
床のモザイク画
絵画作品を巡る合間には、建物そのものの美しさにも注目です。床には古代ローマ時代のモザイク画が埋め込まれており、細部まで見応えがあります。
こちらのモザイクに表現されているのは「3月の寓意」です。


3世紀頃 古代ローマ作品
一見するとどこが3月なのか分かりにくいのですが、古代ローマでは3月から10月にかけて戦争が行われており、3月にはその始まりの儀式が行われていました。このモザイクは、その様子を表していると考えられています。戦争のシーズンがあったというのも、なかなか物騒な時代です…。
床のモザイクは館内の様々な場所にあり、それらを探しながら鑑賞するのも楽しみのひとつです。こちらの女性が描かれたモザイクについては、何を表しているのか正確には分かっておらず、海の女神ではないかと考えられているそうです。


3世紀頃 古代ローマ作品
壁面や彫刻にも注目
壁面の装飾や彫刻も数えきれないほど存在し、空間全体が芸術作品のようです。本当に誇張ではなく、これまでに見たことのないほど豪華な空間でした。


古代ローマ作品(原型:前4〜3世紀頃のギリシャ彫刻)
中央に展示されているのは「戦うサテュロス」です。サテュロスは自然に宿る精霊のような存在で、時代が進むにつれて上半身が人間、下半身が山羊という姿で表現されるようになります。
また、サテュロスは酒好きの存在として知られ、酒の神であるバッカス(ディオニュソス)とともに描かれることが多いのですが、その関係を示すかのように、この部屋の反対側にはバッカス(ディオニュソス)の像が配置されています。


2世紀頃(160〜180年頃) 古代ローマ作品
バッカスとディオニュソスは同一の神を指しており、ギリシャ神話ではディオニュソス、ローマ神話ではバッカスと呼ばれています。
そんなギリシャや古代ローマの歴史の深さを感じる一方、現代美術を大きく取り入れた展示室もあり、芸術の国の豊かさにまた驚かされます。


その他気になった絵画
聖愛と俗愛
ここから再び絵画巡りに戻ります。ボルゲーゼ美術館には、カラヴァッジョやラファエロ以外にも数多くの名作が揃っているため、その中でも特に気になった作品をピックアップしていきます。
こちらはティツィアーノの「聖愛と俗愛」です。


1514年 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ティツィアーノといえば、ヴェネツィア絵画の3大画家の一人であり、この旅行の前半でも多く取り上げました。
タイトルにある「聖愛と俗愛」とは、聖愛が「精神的・純粋な愛」、俗愛が「肉体的・世俗的な愛」を指すとされています。しかし、その意味を理解したうえで改めてこの絵を見ても、やはり一筋縄ではいかないミステリアスな作品です(笑)
ホロフェルネスの首を持つユディト
「ホロフェルネスの首を持つユディト」は、美しい女性と、髭の男性の生首という強烈な対比が印象的な作品です。


1601年頃 フェーデ・ガリツィア
女性がその生首の前髪を掴んでいる姿は、なかなか衝撃的です。この女性が、タイトルにもなっているユディトです。ユディトは旧約聖書の物語に登場し、敵将ホロフェルネスの首を斬ったことで知られる存在です。
ただ、実際に人の首を斬ったのであれば、もっと返り血を浴びていそうな気もします。もしかすると、斬った後に着替えたのでしょうか…と、ついそんなことを考えてしまいました(笑)
ディアナの狩猟
「ディアナの狩猟」も女性が主役の作品です。


1616–1617年 ドメニキーノ(ドメニコ・ザンピエーリ)
画面中央付近で両腕を挙げた勇ましいポーズをとっているのがディアナで、狩猟の女神として描かれています。手に持つ弓と頭に掲げられた三日月が、ディアナを示す目印です。
その周囲にいるのは、ディアナに仕えるニンフ(精霊)たちで、弓の競技に興じている場面が描かれています。池に入ろうとしている手前のニンフは、こちらを見つめており、鑑賞者に視線を向けることで、いわゆる「第四の壁」を破るような表現が取り入れられているのも特徴的です。
ちなみに作者はドメニキーノ。「小さなドミニコ」を意味するあだ名で知られています。
最後の晩餐
「最後の晩餐」は絵画の題材としてとても有名なシーンですが、ヤコポ・ダ・ポンテが描く最後の晩餐で目を引いたのは食事を摂る人々の体勢です。


1546–1548年頃 ヤコポ・ダ・ポンテ(ジャコポ・バッサーノ)
中央にいるのがイエス・キリストですが、その前に両肘をついて半分寝てるように見える人がいます。これではイエスが食べにくいではないですか(笑) 他にも多くの人が体勢を崩して食事をしていて、食事シーンなのに躍動感があるように見えます。肘をテーブルについた体勢が気になったので調べたところ、かつて古代ローマでは専用の寝椅子に横たわって食事をするという作法があったという知識を得ました(笑) まあ、中心に描かれたヨハネは完全に寝てそうですけども。
敬虔な女たちに介抱される聖セバスティアヌス
太ももを矢に貫かれた、衝撃的な場面が描かれている作品が「敬虔な女たちに介抱される聖セバスティアヌス」です。


1610年頃 ルスティキーノ(ベルナルド・ストロッツィ)
ほぼ全裸の男性と、それを介抱する女性という構図はイエスの受難を思わせますが、描かれているのはイエスではなく聖セバスティアヌスです。
ローマといえばキリスト教の中心地というイメージが強いですが、かつてはキリスト教が禁じられていた時代もありました。この作品はその時代を背景としており、セバスティアヌスは体制側の軍人でありながら、軍内部でキリスト教を広めたことで処刑されます。
しかし、矢による処刑では命を落とすことはなく、ここでは矢に打たれながらも生きている姿が描かれています。



つづく…

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