fukuhomuドゥカーレ宮殿へ
ドゥカーレ宮殿とは何なのか
サン・マルコ広場にあるこの荘厳な建物が「ドゥカーレ宮殿(パラッツォ・ドゥカーレ/Palazzo Ducale)」です。


上半分のピンク色の部分にはヴェローナ産の石が使われています。下半分のアーチからは、ゴシック建築らしさが強く感じられます。運河にも面しており、そこから眺めるドゥカーレ宮殿も圧倒的な存在感です。デカい!


「宮殿」と呼ばれていますが、実際にはヴェネツィア共和国の国家元首である「ドージェ」の官邸であり、議会や裁判所、宗教儀式を行う場、さらに牢獄まで備えた、まさに共和国の中心となる建物でした。
巨人の階段
それでは中に入っていきます。見学は事前予約が必要です! 見学は中庭から始まります。


いきなり建物の内部に進む前に、まずはこちらの階段を見に行きましょう。


この階段は「巨人の階段(スカラ・デイ・ジガンティ/Scala dei Giganti)」と呼ばれています。


名前の由来となっているのが、両脇に立つ二つの大きな彫刻です。左側には戦いの神マルス、右側には海の神ネプチューンが配置されています。そして中央にはヴェネツィアの象徴である有翼のライオンが鎮座しています。
海の上に築かれた共和国だったことがよく分かる組み合わせですね。
それでは館内へ
巨人の階段は眺めるだけで、見学者が実際に使用することはできません。そのため、私たちは別の階段から内部へ進んでいきます。


この階段には、右側にアトラス、左側にヘラクレスの彫刻が配置されています(写真では左側が少し見切れています)。
こちらは「黄金の階段(スカラ・ドーロ/Scala d’Oro)」と呼ばれ、その名の通りとてもゴージャスです。


ドゥカーレ宮殿はヴェネツィア絵画の宝庫とも言える場所で、巨大で荘厳な作品が次々と現れます。ここで改めて、「ヴェネツィア絵画3大巨匠」を思い出しておきましょう。


謁見の間
謁見の間(サラ・デッル・ウディエンツァ/Sala dell’Udienza)では、ヴェロネーゼが手がけた壮麗な天井画を堪能できます。その天井画の中の作品の1つが、こちらの「玉座のヴェネツィア、正義と平和に栄誉を受ける」です。


《玉座のヴェネツィア、正義と平和に栄誉を受ける(Venezia in trono onorata dalla Giustizia e la Pace)》
ヴェロネーゼ
中央に描かれているのは、ヴェネツィアを擬人化した女神です。この女神像は、ヴェネツィアの象徴として多くの作品に登場します。女神の下にいる女性が手にしている天秤と剣は「正義」を、オリーブの枝は「平和」を象徴しています。



こちらの絵「アンドレア・グリッティ、聖マルコに伴われ、聖母子と他の聖人たちの前に」はティントレットによる作品です。


ティントレット
もともとはティツィアーノの絵がありましたが、火災でドゥカーレ宮殿が焼失した際に失われ、その代わりとしてティントレットが新たに描いたものです。
左側で黄土色の衣をまとっている人物が、ヴェネツィア共和国の国家元首であるアンドレア・グリッティです。そして彼を先へと導いている、赤と青の衣装の人物が聖マルコです。
聖マルコは書物を手にしており、右下にはその象徴であるライオンも描かれています。彼らの向かう先は、見て分かる通り聖母マリアと幼きイエス・キリストです。
元老院の間
元老院の間(サラ・デル・セナート/Sala del Senato)は、現代日本で言えば内閣の閣議室のような役割を担っていた部屋です。その天井には、ヴェネツィアの繁栄や偉大さを象徴する華やかな絵が並んでいます。
こちらの天井画「ヴェネツィアの勝利」に描かれている最上部の女神は、先ほどのヴェロネーゼの作品にも登場した、ヴェネツィアを擬人化した女神です。


ティントレット
その女神に対して、海の神ネプチューン(手にした三叉槍〈トライデント〉が目印)たちが海の恵みを捧げている構図になっています。
元老院の間には、サン・マルコ広場で見た時計と似たようなものが2つも置いてあり、こちらは星座のみのタイプ、


そしてこちらは時刻を表すタイプのものが壁に備え付けてありました。





押収品や武器
ここで1つ、少し趣の異なる部屋が登場します。武器庫です。ここには、オスマン帝国との戦いの戦利品として持ち帰られた照明器具などが展示されており、三日月の飾りが付いているのが特徴です。


「モロシーニの間(サラ・モロシーニ/Sala Morosini)」と呼ばれるこの部屋には、ヴェネツィアの提督フランチェスコ・モロシーニの肖像と、多くの武器が並んでいます。


小型の大砲(カルバリン砲)など、見どころもたくさんあります。


大評議の間
そして、ここからがいよいよハイライトです。大評議の間(サラ・デル・マッジョル・コンシーリオ/Sala del Maggior Consiglio)にやってきました。ドゥカーレ宮殿で最も大きな部屋で、現代日本でいえば国会に相当する重要な場所です。天井も壁も、どこを見てもヴェネツィアの最高峰の芸術で埋め尽くされた、まさに豪華絢爛な空間です。


最も大きな天井画は、ティントレットによる「ドージェのニコロ・ダ・ポンテがヴェネツィアから月桂樹の王冠を受け取る」です。


ティントレット
国家元首であるドージェが、ヴェネツィアを擬人化した女神から月桂樹の冠を授かる場面が描かれています。女神の足元にはライオンもいますね。もう何度も登場していますが、ライオンは聖マルコの象徴です。ヴェネツィアという国が、女神と守護聖人からご加護を受けているという構図になっています。
そして部屋の正面にも大作が並んでいます。天井の楕円形の絵はヴェロネーゼによる「ヴェネツィアの栄光」です。


遠くから撮ったので拡大したらギザギザですが、中央にヴェネツィアを擬人化した女神がいて、天使から何かを受け取っている姿が描かれています。


ヴェロネーゼ
部屋の一番奥の壁を埋めるのは、ティントレット親子による「天国」です。高さ7メートル・横22メートルのこの絵は世界最大のキャンバスの油彩画であり、完成には9年の歳月がかかりました。


ティントレット(および息子ドメニコ・ティントレット)
中央に描かれているのは、イエス・キリストと聖母マリアです。この神々を背景に元首をはじめとした国の重鎮が座っていたわけです。かなり圧の強い演出とも言えます。
投票の間
元老院の間の隣には「投票の間(サラ・デッレ・ヴォタツィオーニ/Sala delle Votazioni)」があり、この部屋には「最後の審判」が飾られています。


パルマ・イル・ジョーヴァネ
とはいえ、当時の投票は現代のような普通選挙ではなく、投票権を持っていたのは貴族階級のみでした。その“選ぶ”という行為に重ね合わせる形で、この部屋には審判をテーマとした作品が掲げられているのだそうです。
隣の建物は監獄
通称「溜息橋」で接続
ここから先は、これまでの豪華絢爛な空間とはまったく異なる世界へと足を踏み入れていきます。運河の上にかかる連絡通路、通称「溜息橋(ポンテ・デイ・ソスピーリ/Ponte dei Sospiri)」を渡り、別棟へと向かいます。別棟は監獄です。


囚人たちがここを通って監獄へ移送される際、この橋から見える美しいヴェネツィアの景色を最後に眺めてため息をついた――これが溜息橋という名前の由来とされています。
ちなみに当時のヴェネツィアは非常に厳しい監視社会であり、その仕組みによって治安が保たれていたそうです。
薄暗い監獄
監獄の内部は、先ほどまで見ていた豪華な空間がまるで幻だったのではないかと思うほど、薄暗く重い雰囲気に包まれていました。


牢屋の壁には何やら文字が刻まれており、不気味さが漂っています。


監獄の見学を終えると、「溜息橋」を再び渡って元の建物へ戻ります。こちら側からは海がよく見え、視界いっぱいに明るい景色が広がっていました。


ドゥカーレ宮殿の出口は、この「布告門(ポルタ・デッラ・カルタ/Porta della Carta)」です。


1438–1442年 バルトロメオ・ボン
もともとは宮殿の正面入口であり、この門の先は最初に見た「巨人の階段」へとつながっています。門を飾る彫刻は非常に精巧で、細部まで見応えがあります。
お昼ご飯を食べに行こう
外から眺める溜息橋
ドゥカーレ宮殿を後にし、お昼ご飯を食べに向かいます。先ほど渡った連絡通路「溜息橋」を眺められる場所は、観光客で大混雑していました。


正直なところ、橋そのものの見た目よりも、名前のインパクトのほうが勝っているような気がします。
路地にある、ビッレリア・フォルストへ
向かったのは、路地の奥にある「ビッレリア・フォルスト(Birreria Forst)」です。


ビッレリア(Birreria)とはビールを提供するパブのことで、フォルスト(Forst)は南チロル地方発祥のビールブランドの名前から取られているのだと思います。
店内には、ボーダーの服を着たゴンドリエーレが休憩にたくさん訪れていました。冷蔵庫にはサンドウィッチがずらりと並んでいます。


ここで食べたのは、黒いライ麦パンを使った「トラメッツィーニ・ネロ(Tramezzino nero)」というもの。


いわゆるサンドウィッチですが、黒いパンを使うのはヴェネツィアでは定番なのだそうです。


具の内容は失念してしまいましたが、かなりしっかりと肉が入っていて食べ応えも十分。とても美味しかったです。



つづく…

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